13日,金曜日
"もう既に終わってますよね?"
とてつもなく深い時間に。
"おいで"
とだけ返信する。
絵を描く事を生業とする彼が来る事を俺は知っていた。店をやり出すと不思議とこんななんの潰しも効かない能力が付く。いや、付くというよりも本来の力がブーストされる。
仕事に疲弊した彼が店に来て望む事を想像するから、店内は無音にする。
シンプルな彼は忙しい程に自らの判断を渋るものだからなんとなく背中を押してやるような話をシンプルに返す。
ゲスな詮索をし合う。
近況を話す。
実にシンプルな時間が経過する。
"あと10分だけいいですか?"
"何時まででも構わないよ"
"最後に少量できついやつを下さい"
アイラのシングルカスクをただグラスに注ぐ。
"これ、酔っ払うやつですね"
彼は最後の一杯をチビチビと飲んだ。
"うわ、もうこんなに明るい"
"知ってたよ"
その日3箱目のタバコを吸いきった頃に彼は立ち上がり笑顔でいつも通りに言った。
"そろそろ行きます"
13日、金曜日はこうして幕をあけた。
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